作家志望で三児育児中の40代主婦

長女(8歳)、次女(3歳)、長男(1歳)の育児をしながら、小説やエッセイを書いています。

ほろ苦い失恋

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失恋

 

 高校生の頃、友人のエリナが朝から浮かない顔をしていた。いつも大声で「ギャハハ!」と笑い、クラスのムードメーカー的存在の彼女が、暗い顔で一言も話さない。

「何かあったの?」

 休み時間、心配になり声をかけてみた。

「あのね・・・。結婚してたんだって。子供も二人いるって・・・」

 エリナは瞳に涙をいっぱい溜め、震えた声で言った。

 えっ! どういうこと? まさか、エリナ、良からぬ男に引っかかって? いや、でも高校生でそんなっ。

「結婚って誰が!? どういうこと?」

 私はエリナの両腕を掴み、きいた。

「吉井さんが・・・。イエモンの・・・」

 目から大粒の涙をボロボロとこぼし「うう~っ」と唸っている。

 よ、よしいさん~?

 吉井さんとは「ザ・イエロー・モンキー」というロックバンドのイケメンボーカリストである。

「ああー、なーんだ。吉井さんかぁ。驚かせないでよー」

 私はアハハー、と呆れて笑った。

「笑いごとじゃないっ! ずっと独身だと思ってたのにぃっ」

 エリナは、キッ! と私を睨みつけた。

「そんな、泣くほどのことー? てっきりエリナが不倫でもしてたのかと思って、心配したじゃん」

「私は吉井さん以外、好きにならないっ」

 エリナはハンカチで顔を覆い「うえーん」と子供みたいに泣いた。

 エリナの失恋を軽く笑ってしまったせいで、しばらく口をきいてもらえなかった。

 当時の私は、そこまで深く思い入れのある芸能人がいなかったため、エリナの心理は理解できなかったが、二十数年経た現在(四十歳)なら、少しは分かる。

 私は「すかんち」というバンドのギタリスト兼ボーカリストROLLYの大ファンなのだが、彼が結婚発表でもしたら、泣いてしまうかもしれない。

 ROLLYの歌うラブソングを聴いて「ああ、こんなに想われて幸せ・・・」と、なぜか自分に向けてROLLYが歌ってくれている錯覚を起こしているのだ。もし、ROLLYが結婚していたら「この素敵な歌詞も、きっと奥さんを想って書いたのね・・・」と、寂しい気持ちになってしまうだろう。ファンとして、ROLLYの幸福を願っているので、彼には幸せな家庭を築いてもらいたいなぁと思いつつ、でも、特定の誰かのものになってしまうなんて嫌だ、悲しい、と矛盾した気持ちを抱いている。これがファン心理というものだろう(私だけ?)

 

 四十歳になったエリナは、今でも吉井さんのファンである。当時の奥様と別れ、タレントの真鍋かをりさんと再婚した吉井さん。

「なんで、あんな女と!」

 ブツブツ文句を言っているエリナは独身で、吉井さんへの愛を貫いている。一途なエリナもすごいけど、何十年にも渡って、エリナの心を虜にしている吉井さんも大したもんだなー、とテレビに映る吉井さんを観て、関心している。